ティアの心配を知ってか知らずか、途中で何度か3人に出くわしながらもなんとかその度に逃げ切っているルークはというと、今も入り組んだ街の裏通りに潜伏中だった。
「なんでバレンタインなのに決死のかくれんぼしなくちゃいけないんだよ!っていうか、ナタリアもアニスも悪乗りしすぎだろ!!」
彼にしては珍しく正論な愚痴をこぼしていた。
「アッシュは自業自得だとして、ガイは大丈夫かな・・・。まさか気絶してるガイにチョコ食わせたりとか・・・。いや、いくらあいつらでも死人に鞭打つような行為はしないよな・・・」
ガイが聞いていたら、『いや、まだ死んでないから!?』と突っ込みを入れるところであるが、残念ながら当の本人はここにはいない。
「早く諦めてくれるといいんだけどな・・・」
こそこそと今隠れている路地の木箱の山の陰から、通りの様子を伺う。
「ルーク、どこにいますの~?」
「隠れてないで出ておいでよ~☆」
と、そこへ、追手であるアニスとナタリアがやってきた。慌てて隠れ直す。と、どうやら気付かれなかった様で、2人の足音はあっという間に離れて行った。しかし、いつまでもここに隠れていてはいずれ見つかってしまうだろう。今のうちに2人とは反対方向に逃げるか・・・。
「よし、今のうちに・・・」
安全を確認すると木箱の陰から出て、通りに飛び出した。
「きゃっ!?」
「うぉっ!?」
と、通りに顔を出した瞬間、何かにぶつかり、思わず尻もちを付いてしまった。お互いにお尻を摩りながら顔を上げると。
「ルーク!」
「てぃ、ティア?!」
ルークにぶつかってきたのはティアだった。どうやらナタリア組みはそれぞれ分かれて探しまわっていたらしい。逃がしてくれる気はさらさら無い様だ。
「ルーク、ここは大人しく捕まっておいた方が・・・。今ならナタリアだってまだ許してくれると思うわ」
「じゃぁ、何か?ティアはアッシュすら一撃で撃沈させたあの謎の物体を食えっていうのかよ!?」
「そ、それは悪いとは思うけど・・・。きっとナタリアもがんばって作ったものがあんな結果になって、内心とても辛いのだと思うわ。そこをあなた達に脱走されて、引くに引けなくなったんでしょうね・・・」
「うっ・・・。けどよぉ・・・・」
さすがに悪い事をしたと思ったのか、ルークは項垂れる。そんな様子を見て、ティアがルークを励まそうと声をかけようとした瞬間。
「ティア!ナイスですわ。そのまま取り押さえておいてくださいませ!!」
「さっすがティア~♪」
背後から聞こえてきた声に顔を青ざめて振り向くと、数十メートル先にこちらに引き返してきたナタリアとアニスが立っていた。
「げっ!!」
「ルーク、やっぱりちゃんと謝って・・・」
「・・・・・無理っ!!」
「ちょ、ちょっとルーク!?」
ティアの制止を振り切り、ルークは今出てきたばかりの路地に素早く駆けこんでいった。
「そっちは行き止まり・・・・って言おうと思ったんだけど・・・」
「あら、良い事をききましたわね。アニス、ティア、追い詰めますわよ!」
「はいはーい☆」
「わ、分かったわ・・・(あぁ、もうルークの馬鹿!)」
ルークが消えて行った路地の先へ、彼を追い詰めるべく3人は入って行った。
一方のルークはというと。
「なんだよここ!行き止まりじゃぬぇーか!?」
路地の最奥に位置する、ちょっと開けた空間で立ち往生していた。先に抜ける道は無く、逃げるためには今来た道を戻るしかない。が、それもすぐに聞こえてきた3人の足音によって無理だと悟った。壁を背に、空き地に到着した3人を見据える。
「ついに追い詰めましたわ!観念なさい、ルーク!!」
「うっ・・・・(汗)」
「もう抵抗しても無駄だってば~。逃げ道もないんだし。大人しく諦めた方が身のためだよ~?」
腰に手を当ててやれやれと頭を振るアニス。
「アニス!お前、人事だと思って・・・」
「だって人事だし~?☆」
「後で覚えてろよ・・・」
「何をごちゃごちゃ言ってますの?さぁ、お食べになって!」
ツカツカと踵を鳴らして近づいてきたナタリアが、『ルークへ』と書いてある小箱を目の前に差し出した。後に引けなくなったルークは、覚悟を決めて、震える手を叱咤しながら小箱を受け取ろうと手を出す。が。
ガサリ、カサコソカタカタカタカタカタ・・・・
手に取ろうとした瞬間、小箱の内部で何か生き物が蠢くような音が聞こえきた。さらに音に合わせて小箱が微かに振動している様な・・・。
「・・・・・やっぱ無理っ!それチョコじゃなくて変な生き物入ってるだろ!?」
「変な生き物とは失礼ですわね。大佐じゃあるまいし、変なものは一切入れてはおりませんわ。それに材料は新鮮な物を厳選しましたの」
「新鮮すぎるだろ!?動いてるぞそれ!!」
ナタリアから、というより小箱から離れようと後ろに下がるが、壁に阻まれ数メートル後退しただけに留まり。
「・・・黙って聞いていればごちゃごちゃと。男らしく潔く受け取りなさい、ルーク!!」
ついにキレたナタリアは弓を構える。矢の先には未だに蠢く小箱を取りつけてある。
「私の矢から逃れられると思って?!」
台詞と共に矢を上空に向けて構える。
「降り注げ聖光(チョコ)!」
「え?ちょ、それ秘奥義・・・・」
「アストラル・ライン!!」
「ちょ、待っ・・・・ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!!」
ルーク、ナタリアの秘奥義(チョコ)直撃により撃沈。戦闘不能。
こうして、バレンタインデー当日の決死のかくれんぼは、男性陣の惨敗で幕を閉じたのだった。
翌日、意識をなんとか取り戻したアッシュは、ナタリアに支えられながらバチカルへと帰国し、気絶していたガイもチョコを食べなかったおかげで体調も良く、無事に仕事に復帰した。ジェイドはというと、チョコを実験に使用した後食べずに燃やしてしまったらしく、さらにチョコ燃焼時に発生した瘴気のせいで、研究所がちょっとした騒ぎになったそうだ。そして、ルークは。チョコ+秘奥義のダメージが大きく、さらにもう1日寝込む事になった。アッシュ同様のステータス異常で寝込んでいる間、ティアが献身的に看護したおかげで大事には至らず。体調が回復した後、ティアからの手作りチョコを遅ればせながらもらう事が出来て、その時ばかりは存外幸せそうだったそうな。
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