「アッシュとちゃんと仲直りしないと・・・」
(アッシュ・ナタリア編)
コンコンコン・・・
部屋の中でくつろいでいたアッシュとナタリアは、不意に聞こえてきたドアをノックする音に振り向いた。すぐにノックの主に気付き、ナタリアはぱぁっと顔を綻ばせ、アッシュは逆に嫌そうにしかめっつらになった。
「と、とりっくおあとりーと!」
ドアの隙間から顔を覗かせた朱毛の子犬は、ナタリアを見ると嬉しそうに、アッシュを見るとその表情に怯えたようにびくっと体を強張らせた。ルークからすれば普段から威圧的なアッシュだが、今日は本格的な吸血鬼の衣装のおかげでさらに威圧感が倍増している。はまり役ですごく似合っているし格好いいとは思うのだが、今回ばかりはそれがあまり嬉しくなかった。余計緊張するっつーのと思いながらアッシュを見上げていたルークに対し、何やら物言いた気に自分を見上げてくるその怯えた視線に気づいたアッシュは、眉間の皺を深くすると舌打ちして睨みつけた。
「チッ。いつまでもうじうじしてんじゃねぇよ」
その一言でルークの目はまたうるうると潤みだす。
「前にも言ったが、言いたいことがあるならはっきり言え!」
てめぇのそういう態度がいらいらするんだよ、とやはりいらいらしながら言い放ったアッシュにナタリアは眉を寄せてルークを庇った。
「まぁ、アッシュ!さっきはちゃんとルークに謝ると言っていたではありませんの!?そんな言い方は良くありませんわ」
そっぽを向いたアッシュにそう言ってルークに目線を合わせるように屈むと、付け耳を付けた頭を優しく撫でた。
「ほら、ルークも。アッシュに言いたいことがあるのでしょう?アッシュの言うとおり、泣いてばかりでなく、ちゃんと自分の意見を言うことも必要ですわ」
「・・・・(こくり)」
ナタリアに促されて渋々と頷くルーク。アッシュはそんな二人をおもしろくなさそうに見つめるが、ふとルークが先ほどとは違った表情で見上げてきたことに気付き居住まいを正した。
「アッシュ・・・」
「・・・なんだ」
「・・・」
「・・・早く言え!」
「さっきはハゲっていってごめん」
「・・・」
「アッシュはまだハゲてないもんな?」
「・・・てめぇ、喧嘩売りに来たのか?(怒)」
「ち、違うよ!・・・本当にごめん」
そう言ってシュンと肩を落としたルークに、それ以上怒る気も起きず、アッシュもため息をついて膝を折り、ルークと目線を合わせた。
「ハァ・・・。俺もこんな餓鬼相手に大人げなかったか。反省シテイル、ワルカッタ」
「悪いって思ってないだろアッシュ(怒)」
「・・・フン」
「もう!お二人とも、いい加減になさいませ!!」
また喧嘩を始めそうになった二人に腹を立てたナタリアが仁王立ちで二人を睨みつけた。そのままの勢いでアッシュをキッと見下ろすと、さすがのアッシュもたじたじだった。
「アッシュ。あなたはルークの兄なのですから、もう少し彼に優しくしてあげたらいかがですか。今のルークは身も心も子供なのですから、これ以上いじめるのはかわいそうですわ。それに、今日は渡すものがあるのでしょう?」
そう言うと、ナタリアは近くのテーブルの方へツカツカと歩いていき、その上に置いてあった子供が腕に抱えられるくらいの大きさの、可愛らしいラッピングのしてある袋を持ってきた。それをアッシュにどうぞ、と手渡す。ルークがその様子を茫然と見つめる中、アッシュは向き直ると「おい!」とルークを呼んだ。
「ルーク。今日は収穫祭だからな。・・・勘違いするなよ!///」
珍しく自分の名前を呼んだことにも驚いたが、まさかアッシュが自分のためにお菓子を用意していたとは思いもせず、ルークはまじまじと目の前に差し出された袋を凝視してしまった。心なしか袋を差し出しながらあらぬ方向を向いているアッシュの顔が赤い気がする。
「・・・いらないのか?!」
「え?あ!い、いるってば!!」
しまおうとするアッシュの腕から菓子袋をひったくるように奪うと、ルークは中身を確認した。袋の中はルークの好きな、ファブレ家御用達のバチカルの有名菓子屋のクッキーやフィナンシェなどが詰められていた。実はルークの好物をこっそり把握していたアッシュは、やはりルークの兄であった。
「マルクトに来る前に、アッシュがお店に注文して用意しておいてくださいましたのよw」
良かったですわねルーク、とナタリアが微笑む横でさらに顔を赤くしたアッシュを見て、ルークは顔を輝かせると、衝動的にかがんでいるアッシュの首元に勢いよく抱きついた。これはアッシュも予想していなかったようで、顔を真っ赤にして固まっていた。
「アッシュ!ありがとう!!///」
「なっ!!?///」
その後、「離れろ屑!」「やだ!」と押し問答していた二人だったが、ナタリアの一喝で結局アッシュが折れることになり。疲れ切った様子で一人用の肘掛け付きのソファに座り紅茶を飲むアッシュと、そのアッシュの膝の上に悠々と陣取り、満面の笑顔でフィナンシェを頬張る小さなルーク、それを微笑ましげに見守りながらルークからおすそ分けされたフィナンシェを齧るナタリアの姿が目撃されたという。
ちなみに、その日の就寝時間、アッシュは自身の膝の上で安心したのかそのまま眠ってしまったルークが、彼の服をしっかり握りこんで離さなかったために、なし崩し的にそのままルークを抱えて添い寝をすることになってしまった。
「ぅう~・・・あっしゅぅ・・・(にへへ)」
「・・・いったい何の夢見てやがるんだ・・・?(汗)」
「たまにはいいではありませんかwこんな機会滅多にありませんわ♪では、おやすみなさいませ、アッシュ」
「あぁ・・・」
最初は嫌がっていたアッシュではあったが、「本当に歳の離れた兄弟みたいですわねw」というナタリアの言葉を聞いてぐったりと項垂れ抵抗を諦めたのであった。腕の中で幸せそうに眠るルークの表情を見て脱力したアッシュは、そのまま不貞寝した。
後日、ナタリアからその一連の話を聞かされたメンバーにアッシュがからかい倒されて、再度ルークと喧嘩になったのはまた別の話である。
追記:アッシュお兄ちゃんお疲れ様話でした。
ぶっちゃけお子様ルークを抱えて苦悶の表情で寝るアッシュを書きたかっただkry(汗)
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